神楽坂コラム
#1 老舗「助六」の石井要吉さんに聞く
地元神楽坂商店街で大きなイベントとなると必ずマイクを持って活躍をされる、老舗履物店「助六」のご主人石井要吉さん。神楽坂通り商店会の副会長の立場にあり、当イベントでも2年目から毘沙門天善國寺の境内で司会進行役を見事にこなされてきました。その石井さんにお話を伺いました。
ー最初に司会役を頼まれた時には、どんな感じでしたか?
正直言ってちょっと心配でした。というのは、私自身伝統芸能にそれほど詳しいわけではないので、うまくできるかなと。
ーでも毎年神楽坂の毘沙門天で、節分の時や、「神楽坂まつり」の時にみごとな司会ぶりをお見かけしていますが。
あれは、いままで商店街でやってきた延長のことですから。伝統芸能のイベントの司会となると、私自身が清元をやっているとか、三味線を弾けるとか、そういうタイプの人間ではなくまったく無粋の人間ですから。難しいのではと思いました。それでも、神楽坂というまちに住んで、履物の商売をしていますから、日本文化を見直すイベントなら協力できることは協力したいと思ったのです。司会をするにあたっては、神楽坂生れの人間として地元と関係のあるコメントを少しでも入れる様に心がけています。
ー神楽坂は和の文化のまちといわれていますが。
ご存知のように、神楽坂には花柳界がありまして、着物が日常的に必要とされています。うちも代々草履や下駄など履物を扱ってきました。小唄や三味線、日本舞踊のお師匠さんも多く、お稽古場もたくさんあります。もちろん伝統芸能の演者さんも数多くいらして、人間国宝といわれる方も複数いらっしゃいます。そうした環境の中で、「しっかりやらないと」というプレッシャーはありました。
ー昨年はシリル・コピーニさんと二人の司会(写真)でしたね。
二人で掛け合い漫才のような演出で、司会をやらせていただきました。シリルさんは、フランス人で落語パフォーマンスの人です。その彼が台本を持ってこられて、それをはずさないようにしながらアドリブもふんだんに入れていく、というものでした。芸達者なシリルさんが発展して、その上、無茶ぶりまでされて大脱線してしまいました。ほんとにシリルさんのアドリブはすごかったです。今年は、赤城神社はシリルさん、毘沙門天は私が担当することになっています。昨年の脱線ぶりへのあたたかい配慮でしょうか。
新内節にしても、江戸端唄の流れをくむ城端曳山祭の「庵唄」にしても、約300年の伝統を誇る芸能です。それを現代の人たちに伝えていくための司会役を果たせれば、それはうれしい限りです。
#2 新内節の鶴賀若狭掾師匠に聞く
神楽坂の路地やお店で、新内節の名曲を演じるのは、人間国宝の鶴賀若狭掾師匠の社中。1年目からイベントの大事な役割を果たしてきた師匠に、神楽坂と新内節のお話を伺いました。
ー新内節というとすぐ「新内流し」という人が多いですが?
私たちの年代は、新内節というとどうしても門付けして歩く芸能として低俗なものとみられがちでした。本来新内節は、座敷浄瑠璃です。流しではありません。流しはあくまでも営業形態であったのです。だから私は、マスコミに対しても新内節イコール流しという既成概念を否定しようとしてきました。
ー神楽坂には新内節の芸人さんが多かったのですか?
この話(「神楽坂まち舞台・大江戸めぐり」のこと)が来た時に、私はそれでも若い人たちが新内節にふれられる機会になるのであれば、流しであってもお引き受けしていいと思ったのです。神楽坂には、かつて新内節の芸人さんがたくさんいたのに、最近、新内節はだいぶ下火になってきて、伝承の危機だからです。少しでも宣伝普及のためになるのなら、やってもいいと。ただボクはもうこの年だから、もう流しをやるのはおかしいでしょう? それで鶴賀伊勢吉(写真)たちに任せているのです。いまの若い人たちに新内流しといってもわからないものね。
ー東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が決まって、日本文化が注目されていますが。
神楽坂って芸能のまちだから、こうした伝統芸能の大きなイベントをやってくれると、随分と宣伝普及につながります。神楽坂だけの小さな問題じゃなくて、広く伝統芸能をめざす若い人たちにも刺激になって、いいチャンスをつくることになりますね。それが東京オリンピック・パラリンピックに向けて神楽坂から発信していくのは、実にいいことです。
ー伝統文化は後継者不足と言われていますが。
ボクは、伝統工芸の審査委員をしていますが、芸能だけじゃない、どの分野でもいまは後継者不足で本当に困っています。漆芸、染色、仏像修復など後継者が激減しています。たとえば、漆を採る木に傷をつけるその金具をつくる鍛冶職人は、もう一人しかいない。漆を塗る刷毛をつくるのは、人間の毛髪ですが、海に潜る海女さんの髪が油がぬけていて最適なのですが、そういう文化を伝承していく後継者がもういない。
ー当イベントを神楽坂らしい文化イベントに育てていきたいのですが。
こうした時代に、こういうイベントやってくれるのは実にありがたいものです。聞けば、八王子でも昨年から伝統芸能のイベントが始まったそうですね。もっともっと広まるといい。チャンスだと思う。本当に神楽坂は恵まれています。坂と路地が入り組んでいて、素晴らしい情緒がまちのいたるところに残されている。そこを舞台にしてやるのだから、とっても贅沢なイベントといえます。ぜひ、まちの情緒と一緒に味わってほしいものです。
#3 縁香園オーナーシェフ秋場俊雄さんに聞く
前夜祭に行われる「店めぐり・古典芸能ライブ」。昨年に引き続き、今年もその舞台となる「縁香園」のオーナーシェフ秋場俊雄さんにお話を伺いました。
ー2年半前、オープンした年にお食事に伺ってこの場所がすっかり気に入り、お声がけさせていただきました。伝統芸能の舞台会場になることについて、どう思われましたか?
店で舞台をやるのは全く初めてのことでした。ただ、それはできるんだろうなというのは頭にありました。もう一つ、神楽坂で生きていくためには神楽坂に溶けこまないと、という思いがあります。住んでいる人や働いている人に応援されないと神楽坂では生きていけません。
ー「まちと一体」がイベントのコンセプトでもありますので、それは大変ありがたいです。縁香園さんのめざす「地元に開かれたお店」とは、どういったものでしょう?
地元のおじいちゃんおばあちゃんが、孫を連れてくる。ファミリーで食べにくる。2〜3歳の子どもが「あそこでチャーハン食べたい」ってことでうちにくる。ですから値付けも高くしません。一方で、企業さんがたくさんありますから、接待で使ってくださる。そうなると間口が広いですから、味のクオリティをキープするのがすごく大変なんです。
ー今年で5年目ですが、ここまで地元の人たちが一緒に作るという意識になって協力してくださっていることが、全体としてすごく大きなポイントになっています。
逆にいえば、その舞台会場になることで、お客さんが安心するんです。特に外から来る年配の方は、こういうのをやっているお店だということで安心するみたいです。
ー実際にお店を会場にしていただいて、大変だったことはありますか?
あんまり無いです。全部可動式で、元から構造物がないので。この店は本当にハコなんです。お金があったら、ここに個室も作ろうとか、中華はやっぱり円卓だから、こっちに円卓作ろうとか考えていたんですけれど(笑)。強いて言うなら、予約ですね。今年の開催日も30名予約が入っているので、お客さんがバッティングしないようにするくらいです。
ー今年はシリル・コピーニさんの落語パフォーマンスと、桧山うめ吉さんの俗曲です。高座を作りますから。最後に、イベント自体に対する感想があればお聞かせください。
ご苦労が多いんだろうなって思います。舞台が決まっていないから、そこを訪ねていって作り込むということは、結構大変じゃないでしょうか。
ーまさに、お店の方なのでそういうところを敏感に感じてもらえるのかもしれません。ある意味、通りがかりの人を呼び込む魅力も必要ですし、一方で何か事故が起きないように気を配らなければなりません。わかっていただけて、本当にありがとうございます。
#4 法政大学 村田晶子教授に聞く
法政大学で学ぶ留学生35名が、昨年「神楽坂まち舞台・大江戸めぐり2016」にボランティアとして参加。世界各国からの留学生は、日本の伝統文化のイベントにふれて何を感じ、何を学んだのか、同大学グローバル教育センターの村田晶子教授にお話を伺いました。
ー昨年、初めて参加されていかがでしたか?
ただスポットとして参加するのではなく、事前学習をして、ゲストスピーカーとして主催側の話も聞き、イベントの背景やボランティアの意気込みも伝わっていたので、明らかに留学生の反応が違いました。留学生にとっては、大学内での交流はあっても、地域内での交流はあまりないのです。たとえば、お祭りに行っても、屋台でなにか食べて帰るぐらいで、一過性のものがほとんどでしたから。
ー今回は、自分たちで体験したことを新聞にして残してくれていますね。演者や舞台をつくっている裏方の人たちにも直接話が聞けるチャンスでもあった?
そうです。パフォーマーへのインタビューで質問に答えてもらい、それを記事にする。そうした作業は日本文化の研究にもなりますし、地域を知るにしても、芸術を理解するにしても、たいへんよい機会でした。最後に新聞というカタチにしたことで、自信にもつながりました。
ー大学側から協力いただき、全面的にバックアップしてもらいました。こちらこそ大学と地域が連携する非常によい機会をつくっていただいたことに感謝します。学生がつくった新聞、成果物というカタチで見られたことが、主催者側としてもうれしいです。こうしたフィードバックは、今後の貴重なステップになります。
ー具体的に参加した留学生の声を聞かせてもらえますか?
ほかにも授業のパートを組み合わせて一学期となっているのですが、なにが楽しかったと聞くと、圧倒的にこのイベントに参加して、地元の人とふれあってお祭りの一部になれたことがすごい思い出になった、といっています。
ーどこの国からの留学生が参加されたのですか?
中国、韓国、台湾に加えてロシア、ウズベキスタン、イタリア、オーストラリアなどで、総勢35名です。そのうち「覗いてみようお座敷遊び」へは2名。スタンプラリーなどの各スポットには33名ですね。上級の日本語クラスの学生です。イベントの当日、日本語のコミュニケーションでご迷惑がかからない程度の語学力をもっていることが前提となっています。
ー日本文化にふれてくれる学生が広がって、各々ステップアップしていくのが楽しみですね。このイベントを運営している中心的な役割を果たしているスタッフに法政大学のOBが二人もいて、なにかご縁を感じています。
今年は漢字圏の留学生が多いクラスですが、今後さらに多様な国籍の学生が参加できると思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。